「トレイ」は、形づくりからです。丸鑿(まるのみ)で内側を削ります。和み(なごみ)の演出のつもりです。切れ味の鈍った鑿です。本来はスパッと潔い切り口を期待したのですが、サンドペーパーと「埋剤」での微修正に妥協します。

いよいよ塗りです。素材がケヤキ(欅)であることから、本来は黒漆での拭き漆が一般的です。しかし、冒険することにします。以前から試したかった「歌舞伎の緞帳(どんちょう)」の配色です。

これは3色で構成されています。しかし、その3色には違いがあるようです。「黒、茶、緑」、「黒、黄、緑」、「群青、ピンク、薄緑」、「群青、柿、青」、「黒、赤、緑」、「黒、柿、萌黄」等です。

先日お亡くなりになった勘三郎の中村座は「黒、白、柿」だったようです。


悩んだ末、「黒、赤、緑」に決めます。それを、拭漆(ふきうるし)でケヤキに演出させようとします。

以前、色漆の使い方が曖昧でした。黒漆での拭漆の後に色漆を使うと、期待した色にならないのです。

しかし、先般、漆問屋のH氏がお出でになった折、『最初に塗るのは色漆です。十分に色が浸み込むように、3回は塗ります。』と教えてもらいます。

今日はまず「赤」を塗ることにします。木地への浸透を促すためにテレピン油を混ぜます。使う漆の量はほんの少量です。しかし、漆をチューブから多く絞り出してしまいます。結局、他に塗るものを探すことになります。

候補に上がったのが「バインダー」です。材質は青森ヒバです。数回つかっていますが、これまで白木でした。これを歌舞伎調の配色の拭き漆に仕上げることにします。

生漆(きうるし)は適度な温度と湿度で乾燥します。高い気温と高い湿度です。気温と湿度とでは湿度が優先します。しかし、冬の今は、この2つの条件に恵まれていないことから、完成までには結構な時間を要しそうです。


色が混じらないようにマスキングテープを使うことにします。赤漆での拭漆を繰り返した後、緑の拭き漆になります。これも数回繰り返して最後に黒漆になります。

この色漆の拭漆は、国内ではやっている御仁はいないようです。数年前、我が工房KUROOBIでの作品が第一号であったようです。桶(おけ)を、朱漆の拭漆で仕上げたのです。

金属的な透明感が生まれました。その桶は、今はK女史の手元にあります。毎年、前沖(まよき)の島で行われる龍神祭になると大福餅を入れて持っていくのだそうです。

一方のトレイは斜めのストライブにします。そして、他方のバインダーを水平にします。この「歌舞伎の緞帳もどき」の作品も、面白くなりそうです。


2012/12/15(土) 17:40